このページでは価値の探求者たちのレビューを紹介します。
価値の探求者たちはバリュー投資家のために書かれた本です。
本書は著者の取材をもとに構成されており、12人のバリュー投資家の生い立ち、思考、実績、手法などがまとめられています。
バリュー投資家は長期投資を基本としますが、本書を読むことでバリュー投資と長期投資の信念を見つけ出すことができます。
【概要】価値の探求者たち
価値の探求者たちは12人のバリュー投資家の生い立ち、投資に対する姿勢、投資手法をわかりやすく記しています。
本書に書かれているバリュー投資家は以下のとおりです。
- ウォルター・シュロス
- アービング・カーン
- トーマス・カーン
- ウィリアム・ブラウン
- ジャン・マリー・エベヤール
- フランチェスコ・ガルシア・パラメス
- アンソニー・ナット
- マーク・モビアス
- ティング・イック・リーエン
- 阿部修平
- ヴィーニー・イェ
- チア・チェング・フイェ
本書は上記の著名投資家のインタビューを中心に構成されています。
著者のロナルド・チャンがメール、手紙、電話でアポイントメントを取り、自ら足を運んで取材した成果が本書です。
できるかぎり多様な文化的背景を持つ投資家を取り上げており、さまざまな成功の言葉や投資アイデアが詳細に記されています。
本書を読むとバリュー投資の本質が1930年代から変化していないことがわかります。
世界の著名投資家たちが著者の人物としての魅力に引き込まれて、本音を赤裸々に吐露しているような記述は必見です。
他の投資本にはない独特の深みに包まれている本書をぜひご覧ください。
【価値の探求者たち】12人のバリュー投資家
価値の探求者たちでは12人のバリュー投資家を取り上げ、その特徴を徹底的に表現しています。
すべての投資家を紹介するのは大変なので、気になる方は本書を購入してください。
ここでは個人的に気になったバリュー投資家を3名だけ紹介します。
ウォルター・シュロス
ウォルター・シュロスはバリュー投資の父「ベンジャミン・グレアム」の教え子であり、グレアム・ドッド村のスーパー投資家というニックネームで有名です。
ウォルター・シュロスの生い立ちは以下のとおり。
- 1916年:ニューヨークに生まれる
- 1938年:証券会社で働き始める
- 1940年:ベンジャミン・グレアムのもとで証券分析を学ぶ
- 1946年:ベンジャミン・グレアムの会社で働き始める
- 1955年:自身の運用会社を設立する
- 1960年:息子とともに会社を運営する
- 1973年:会社名をウォルター&エドウィン・シュロス・アソシエーツに変更
- 2001年:引退
ウォルター・シュロスが運用したファンドは1956年から2002年にかけて、複利年率で16%(報酬控除前21%)のリターンを出しました。
ウォルター・シュロスの投資手法はネット-ネット戦略と呼ばれています。
ネット-ネット株(運転資本の価値よりも安くなっている株)
・企業にある現金と流動性を持つ資産を評価する(①)
・売掛け金と在庫の割引価値を求める(②)
・①と②の合計から負債を差し引く
・③で算出された数値を発行済株式数で割ると1株当たりのネット-ネット価値がはじき出される
ネット-ネット株を買うことは、1ドルを50セントで買うようなものだと言われており、ウォルター・シュロスは生涯を通じてネット-ネット戦略を続けました。
私はグレアム・ニューマンにいた時と同じ投資手法を用いていた。すなわち、ネット-ネット株を探していたのだ。これは投資家の資金を守るためであり、投資家の利益を最大限に図ることが私の使命だ。
また、ウォルター・シュロスは買いに入るタイミングが早すぎるそうです(本人も自覚しているとのこと)
株価が割安ならその場で買い始めるが、保有した後に株価が下落することもあり、そうした場合はさらに買い足したとのこと。
天才的な投資家でも失敗する事実は初心者に安心を与えます。
ウォルター・シュロスの平均的な株の保有期間は4~5年です。
割安になった株が本来の価値を反映した株価に戻るには時間がかかり、数年単位の長期保有が必要となってきます。
私は株という商品を在庫に持っている日用雑貨屋のオーナーだ。在庫の株は配当を払ってくれることがあるから、売れるまで少々時間がかかっても平気だ。待っていれば、そのうちにだれかがよい価格で在庫を買おうといってくれる。
そして、ウォルター・シュロスは投資家になりたいなら自分自身を知るべきだと言っています。
自分自身の長所と短所を知ることから始めて、次に自分に会うよう投資戦略を工夫して、意思を固めた後は自分の考えが実現するまで待ち続けるのです。
ウォルター・シュロスに関する記述を読んでいると、投資と真摯に向き合ってたことがわかります。
投資を楽しみながら、なおかつ利益を追求していく姿勢は、今の時代を生きる投資家も参考にするべきでしょう。
マーク・モビアス
マーク・モビアスは「新興市場の長老」と呼ばれており、過去20年間にわたり新興市場で最も成功をおさめた投資家の一人です。
マーク・モビアスの生い立ちは以下のとおり。
- 1936年:ニューヨークに生まれる
- 1955年:ボストン大学で美術を専攻する
- 1959年:ウィスコンシン大学に入学する
- 1969年:コンサルティング会社を設立する
- 1973年:「中国との取引」を執筆する
- 1987年:ジョン・テンプルトンの会社で働き始める
- 2011年:テンプルトン・エマージング・マーケッツ・グループの会長を務める
マーク・モビアスが運用したファンドは2016年3月31日までで年率11.98%のリターンを出しました。
マーク・モビアスは個々の企業を理解することを重視するボトムアップ型のバリュー投資家です。
マーク・モビアスは、銘柄選択に株価収益率、株価純資産比率、株主資本利益率、投下資本利益率、売上高利益率、1株当り利益の伸びなど、さまざまな指標を用います。
また、マーク・モビアスは香港株式市場で大きな失敗をしています。
同僚からの話を信じて投資した結果、投資先が倒産して大きな損をしてしまったのです。
マーク・モビアスは自戒をこめて言っています。
この失敗から私が学んだことは、投資判断をするときに決して他人のアドバイスを受け入れてはならないということだ。常に自ら学んだことに基づいて判断し、自ら収集した情報にのっとって行動する。それで状況が悪くなったとしても、少なくとも自らの失敗から学ぶことはできるからね。
著名投資家でも失敗することはあります。
失敗しないことも大切ですが、失敗から学ぶことはもっと大切なのです。
そして、マーク・モビアスは新興市場の投資に関して、4つの基本ルールを策定しています。
- 公正
- 効率性
- 流動性
- 透明性
それぞれの頭文字をとってFELTと呼ばれています。
公正とは、新興市場が投資家の規模を区別することなく公平に扱っているか。
効率性とは、証券取引所や証券会社が投資家に対して誠実かつ友好的かどうか。
流動性とは、株式の売り買いの注文を執行できるだけの規模があるか。
透明性とは、会計的にも財務的にも偽りがないか。
マーク・モビアスが4つのルールを決めた背景として、不誠実なブローカーとの出会い、財務諸表の架空の数値、流動性のない株式の塩漬けなどが影響しています。
天才的な投資家でも過去に苦い経験をしており、常に素晴らしいリターンを上げているわけではありません。
著名投資家の失敗を知ることで、投資初心者は心の慰めになるでしょう。
阿部修平
阿部修平は日本にある資産運用業の持株会社であるスパークス・グループの創設者です。
阿部修平の生い立ちは以下のとおり。
- 1954年:札幌に生まれる
- 1976年:上智大学で経済学を学ぶ
- 1979年:野村総合研究所に入社する
- 1985年:アベ・キャピタル・リサーチを設立する
- 1989年:スパークス投資顧問株式会社を設立する
阿部修平はアメリカで働くうちに、アメリカと日本の投資リサーチの違いに気づきます。
日本の投資家は企業の簿価だけに基づいて価値を計算しており、将来の利益成長を考慮に入れていませんでした、
そのため、多くの日本企業が割安で取引されていたのです。
また、阿部修平は日本の小型株が割安で放置されていて、大型株が割高で取引されていることに気づきます。
競争に勝つためには、人と違うことをしなければならない。そこで、私は小型株にバリュー投資の考え方を適用する戦略をとった。小型株は流動性が低いことから、ブローカーが顧客に積極的に買いを勧めることが皆無だったため、株価収益率10倍前半という大幅な割安価格で取引されていた。
阿部修平は日本小型株のモデルポートフォリオをつくり、海外の大手機関投資家に売り始めたのです(ただ、スパークスはバブル崩壊によって大きな損失を抱えました)
そして、阿部修平は投資において、ひとつのことに集中し続けることの重要性を述べています。
さまざまな資産について分析するのではなく、特定の資産に特化して分析することで、投資家として成長していけるのです。
加えて、投資のアーティスティックな側面にも重きを置いており、将来に何が起きるかを想像して、変化に対して柔軟な対応が求められるとのこと。
阿部修平は数々の困難を乗り越えていくなかで、日々の行動の大切さを重要視しています。
明日は、昨日と今日から連続する流れである。その流れのなかで毎日常にベストを尽くすこと、決して気を抜かないこと、これが重要なのだ。
これから投資を始める方にとって、阿部修平のモットーはとても参考になるでしょう。
バリュー投資家に必要なものは謙虚さ
本書で取り上げられたバリュー投資家に共通する点として謙虚さが挙げられます。
投資家の謙虚さとは以下のとおり。
- 時には判断を誤ることに気づく
- 世の中の変化を受け入れる
- 株式市場は不確実だと理解する
- アイディアが実を結ぶまで忍耐力を要する
本書で紹介されているバリュー投資家のほとんどは分散投資をしており、謙虚な気持ちを持って投資に向き合っています。
世の中は不確実であり、自分の分析には限界があることを知っているからこそ、分散投資でリスクを回避するのです。
集中投資のほうが銘柄を管理しやすいし、より大きなリターンを狙うことができるのは間違いありません。
ただ、バリュー投資家の美徳は謙虚さなのです。
謙虚さは投資の不確実性に備える安全域の概念と結びついています。
謙虚さを持つことで、最も大事なことが資産を守り損失を回避することだと気づけるのです。
バリュー投資家にとって読書は必要不可欠
トーマス・カーンは読書をしないバリュー投資家は一人も知らないと言っています。
トーマス・カーンの父親アービングが良い例です。
読書をしないで投資アイデアを考え出す投資家はみたことがない。父は何千冊もの本を読んでいたけれど、なかでも科学の本はお気に入りだった。科学について広範な知識をもっていたおかげで、過去にとらわれることなく、今後の進展に注目していた。
バリュー投資家は無知を自覚しているからこそ、読書に励むのかもしれません。
さらに、バリュー投資家として政治経済の動向をしっかり理解する必要があります。
投資においてファンダメンタルズだけに注目するのは危険で、政治経済など企業を取り巻く環境にも注目する必要があるのです。
政治が動くことで地域の経済が劇的に変化するため、投資機会が発生するのも消滅するのも速く、十分な知識がないとチャンスを活かすことができません。
読書をとおして、政治動向、経済サイクル、産業セクター、ビジネストレンドなどの知識を養うことで、バリュー投資の成功確率を高めることができます。
バリュー投資家の心構えとは
バリュー投資に最も重要なのは忍耐と規律です。
バリュー株が数年で株価上昇しないからといって、その銘柄が良いパフォーマンスを生まないとは言い切れません。
株価が本質的価値を反映するまで待てないからといって、失敗のバリュー投資だったと誤認してはいけません。
バリュー投資家は本質的価値に従って、他の投資家が手を引いたときに投資して、他の投資家が参入したときに手を引くべきなのです。
本書を読んで個人的に大切だと思ったのは「一時的な未実現の投下資本の損失」と「恒久的な投下資本の損失」の違いです。
バリュー投資は本質回帰するための時間が必要なため、一時的な損失には忍耐が求められます。
反対に、投資家が見誤ったことで生じる恒久的な損失には、即座の損切りと失敗から学ぶ謙虚さが求められます。
一時的な損失と恒久的な損失を理解するためには、自分の投資価値基準をしっかりと持っておく必要があり、投資家の心構えの根本的な部分だと思いました。
まとめ
投資は楽しくあるべきで、バリュー投資がストレスになっているようでは、投資の失敗と言えるでしょう。
安全域にフォーカスして、長期的に投資を考えて、忍耐強くあることで、穏やかな心でバリュー投資が続けられます。
価値の探究者たちは12人の投資家の話を通じて、バリュー投資の本質を教えてくれます。
また、本書で紹介されている投資家のほとんどが忍耐を持っていました。
投資をした後に株価下落を経験しているバリュー投資家は多く、本書を読むことで忍耐と規律の大切さを実感できます。
価値の探究者たちはバリュー投資家の心の支えになる一冊です。
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